イクレイ日本理事長に竹本和彦氏就任(2022年6月16日)
2005年から理事長を務めておりました浜中裕徳氏が2022年6月に退任し、新理事長には一般社団法人海外環境協力センター(OECC)理事長 竹本和彦氏が6月16日付けで就任いただきました。
竹本和彦氏プロフィール
1974年環境庁(現環境省)に奉職後、大臣官房審議官(地球環境担当)、環境管理局長及び地球環境審議官などを歴任。気候変動、3R・資源循環などの環境問題に関する国家戦略、持続可能な社会実現に向けた政策立案及び国際協力推進に尽力。
その後国連大学サステイナビリティ高等研究所所長を経て、現在、海外環境協力センター理事長、国際湖沼環境委員会理事長及び東京大学未来ビジョン研究センター特任教授として活動展開。また内閣府「自治体SDGs推進評価・調査検討会」委員、環境省「SDGsステークホルダーズミーティング」構成員及び国際応用システム分析研究所(IIASA)理事会副議長などを務める。2022年6月より現職。
近著に『海外環境開発協力の歩みと展望』(2022、環境新聞)、『環境政策論講義 SDGs達成に向けて』(2020、東京大学出版会)。工学博士(東京大学)。
寄稿「持続可能な都市・地域づくりの取り組みを振り返る」
浜中裕徳(前イクレイ日本理事長)
2005年にイクレイ日本の理事長に就任以来今日まで約17年間イクレイ日本の運営に携わらせていただきましたが、この度理事長を退任させていただきました。長い間ご協力いただいた理事、監事、顧問、会員自治体の皆様、世界のイクレイファミリーの皆様、そして調査研究や事業にご協力いただいた関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
イクレイ日本は持続可能な都市と地域の形成を目指す自治体の国際的なネットワークであるイクレイ(国際環境自治体協議会、1990年発足当時の名称)の日本支部として93年に発足し、来年で設立30周年を迎えることになります。国際的には1992年にリオデジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)が開催されて今年で30年、97年に京都議定書が採択されて25年になります。持続可能な開発の実現を目指す取り組みにおいてはこれまでアジェンダ21、SDGs(アジェンダ2030)、気候変動枠組条約とその下での京都議定書およびパリ協定、生物多様性条約とその下での愛知目標など、国際的に協調した行動の枠組みや実施ルールの構築が進められてきました。そして、こうした枠組みやルールの下で、国、自治体やその他の非国家主体により取組が進められました。
京都議定書実施の準備が整えられた気候変動枠組条約第11回締約国会議(モントリオール、2005年)では、「気候変動に関する世界市長・首長協議会」(WMCCC)の設立総会が開催され、気候変動行動に向けた自治体首長のイニシアティブを強化する体制をつくり、各国政府へのアピールや自治体間の連携協力活動を強化することになりました。わが国では、都市型キャップアンドトレード、環境協力を通じたアジアの自治体の低炭素化支援など自治体による先進的な取組が進められました。日本の自治体の気候行動をイクレイ日本として自治体の気候行動を公表し共有する「地域のカーボンレジストリ報告」はイクレイ世界本部が集計した2015年までの報告主体数608のうち133で約2割を占め世界最多でした。なお、18年の集計結果によれば世界の報告主体1060の合計累積削減量は2020年までに77億トン、30年までに149億トン、50年までに337億トン(いずれもCO2換算)と推計されています。
こうした自治体の取り組みを含む各主体による排出削減努力にもかかわらず、現段階では全体としてそれらは気候システムや生態系の危機を回避するために必要とされる水準まで進捗しておらず、未だ大きなギャップが残っています。
そして2020年以降私たちはコロナ禍において格差、分断、パンデミックによる社会・経済的影響の弱者へのしわ寄せ、格差、分断の問題に直面し、持続可能性を高めるうえで社会経済的な強靭さ(レジリエンス)と包摂性が重要な課題であることを改めて認識させられました。
さらに、2022年2月以来、私たちはウクライナで起こっていることから派生する複合的な課題に直面しています。エネルギーや食糧の価格の上昇、供給不安や影響の社会的弱者へのしわ寄せが懸念され、また気候危機の回避に必要な対策が後回しにされるおそれがあります。エネルギーや食糧のサプライチェーンの再構築を含む供給構造の改革と、気候・生態系の危機を回避する行動とを統合的に実施することが益々重要です。
気候危機を回避するためには、社会・経済の広範な分野に亘る急速なシステム転換が求められますが、同時に、公正な移行、経済安全保障とレジリエンスを含む複合的な危機に対し統合的に取り組むことが求められます。そして、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候危機の回避を実現するうえで、消費者が行動を変容し脱炭素型ライフスタイルに転換することは、その促進条件になると指摘しています。
気候システムや生態系の危機を回避するうえで自治体、地域コミュニティを含む多様な主体の役割が益々重要になっています。自治体が関係する主体との双方向的で多層的な連携協力を進め、システム転換に向けた革新的な行動を先導すること、そしてその成果を広く共有するとともに、行動をスケールアップし社会に波及させることが重要です。
とくに、地域コミュニティでは、持続可能なライフスタイルを促進するため市民、生産者やその他の関係者の行動変容をもたらす包括的なプログラムが重要であり、自治体が関係者と協力し革新的な取組を試行するなど先導的な役割を果たすことが期待されます。
イクレイ日本と会員自治体の関係者の皆様に改めて感謝を申し上げますとともに、今後の取り組みの益々の発展を祈ります。
浜中裕徳(前イクレイ日本理事長)