【開催報告】ラムサール条約第15回締約国会議(COP15)

ラムサール条約締約国会議は、ラムサール条約(正式名称「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」)の締約国が集まり、条約の実施状況や次回締約国会議までの計画等について議論する場です。1980年の第一回締約国会議(COP1)以来、概ね3年ごとに開催されています。
第15回目となるラムサールCOP15は、2025年7月23日から7月31日まで、ジンバブエ共和国のヴィクトリアフォールズで開催されました。172か国の締約国が参加したほか、オブザーバーとして、関係自治体、イクレイなどの国際ネットワーク等が参加しました。イクレイ日本は、ラムサール条約湿地である「藤前干潟」の保全に取り組む名古屋市の派遣団と共に、本条約COPに参加しました。
COP15のテーマは、「湿地を守ろう わたしたちの未来のために(Protecting Wetlands for our Common Future)」です。本会議により、湿地が生態系の健康維持、生物多様性の保全、および気候変動への適応力において果たす重要な役割が示されました。
ラムサール条約湿地都市認証制度に基づく認証式
今回のラムサールCOP15では、これまでにない規模の市長・地域リーダーが集まり、ラムサール条約湿地都市認証制度に基づく新規認証都市への認証式が開催されました。
ラムサール条約湿地都市認証制度は、湿地の保全・再生、管理への地域関係者の参加、普及啓発、環境教育等に関する国際基準に該当する自治体に対して認証を行うものです。イクレイがこの認証式に参加し、COP15に出席したことは、湿地の保全を訴え続けてきたイクレイにとって、誇るべき節目となりました。最も目に見える進展の一つは、新規湿認証都市の拡大であり、今年は16か国から過去最多となる31都市が認証されました。こうした認証都市の拡大は、都市が湿地の保全に果たす重要な役割について、世界的な認識が高まっていることを示しています。
湿地都市認証制度の構想段階から関与し、独立諮問委員会のメンバーを務めるイクレイにとって、単なる象徴にとどまらず、グローバルな目標達成における地域行動の力を実証するものです。
名古屋市の認証
今回、湿地都市認証を受けた31都市の中には、イクレイ日本加盟自治体の名古屋市が含まれています。
名古屋市内のラムサール条約湿地である藤前干潟は、かつて、ごみの埋め立て処分場の計画地に選定されていました。しかし、地域社会が一丸となって、処分場計画を中止し、埋め立てよりもゴミの削減に踏み切り、藤前干潟を保全してきた歴史があります。今回の名古屋市の認証は、こうした歴史と現在も続く地域住民等による保全、環境学習等の推進が評価されたものです。認証授与式では、名古屋市がその保全の歴史や、環境教育、そして国内外の湿地との交流等の取組について発表しました。
イクレイが関わった公式サイドイベント
イクレイは、COP15において複数のサイドイベントを共催しました。中でも特筆すべきは、7月25日に条約事務局および国連環境計画(UNEP)と共に開催した「繁栄する湿地と都市:大胆なリーダーシップと決断力ある行動 (Thriving wetlands, thriving cities: Bold leadership and decisive action)」です。埋め立て・汚染・気候変動といった悪影響の脅威にさらされている都市部の湿地をどう保全していくのかにフォーカスしたイベントで、開催地のヴィクトリアフォール市などと共に、日本からは名古屋市が登壇しました。
名古屋市からは、市の職員とともに、3名のユース(高校生、大学院生、社会人ユース)が登壇し、日ごろの干潟保全活動等について発表し、会場からも大きな注目を集めました。
世界湿地概況2025特別版の発表
COP15の大きなハイライトのひとつは、『世界湿地概況2025(Global Wetland Outlook 2025)』の発表でした。これは、これまでで最も包括的な湿地に関する世界的評価です。本報告書は、湿地の健全性に関する最新の知見を提供し、保全の優先課題を示すとともに、持続可能な管理を導くための実行可能な勧告を提示しています。この展望は、湿地の計り知れない価値について認識を高め、将来世代のためにその保護と賢明な利用を確保することを目的としています。
採択された決議(地方自治体に関連するもの)
「条約の認知度向上と、他の多国間環境協定および国際機関との相乗効果強化に関する決議」は、締約国から幅広い支持を受け採択されました。イクレイも本決議を歓迎します。本決議は、ラムサール条約において、地方自治体の声が確実に反映されるように、イクレイおよびCitiesWithNatureの報告プラットフォームを承認し、湿地のより広範な環境ガバナンスの枠組において、地方自治体の位置づけを確認するものです。
地方自治体にとって重要なその他の決議は、「保護地域およびその他の効果的な地域に基づく保全手段(OECMs)を通じた公平なガバナンスと湿地の効果的な保全に関する決議」です。イクレイは、正式な保護地域ではなくても、生物多様性や文化的アイデンティティ、気候レジリエンスにとって依然として重要な湿地をOECMアプローチで保全できると認識しています。この決議は、英国がジンバブエ、マダガスカル、アラブ首長国連邦と協力して主導し、幅広い支持を受けました。また、2030年までに陸域と海域の30%を保全することを掲げる昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の目標3(30by30目標)とも密接に整合しています。
さらに注目されるのは、「都市および都市周辺湿地の管理の基盤としての教育と参加に関する決議」(コロンビア提出)です。この決議は、都市域における緑地・水辺空間に関するGBF目標12との関連を強調しており、多くの締約国から幅広い支持を受けました。その中には、この決議を湿地都市認証制度と関連づけるよう求める提案も含まれていました。
イクレイは、地方自治体の声をさらに強め、地方自治体が湿地関連の公約の単なる実施者にとどまらず、解決策の共同創造者となることを確実にしていきます。湿地は都市と生態系の双方にとって生命維持システムであり、私たちの将来のレジリエンスはその保護にかかっています。そしてその保護は地域から始まります。
本記事はイクレイ都市生物多様性センターの記事を元に、イクレイ日本が作成しました。