プラスチック条約交渉が最終段階へ:地方自治体の役割は?(INC-5.2)

法的拘束力を持つ国際的なプラスチック条約の最終交渉フェーズが、いよいよ開始されようとしています。2025年8月にスイス・ジュネーブで開催される「プラスチック汚染に関する政府間交渉委員会(INC)」の第5回再開会合(INC-5.2)の第2部では、多くの人が「実現は難しい」と見ていた合意が、いよいよ現実のものとなる可能性があります。
もし合意に至れば、現在の緊迫した地政学的情勢を背景に画期的な成果となります。近年、国際的な協定は合意形成に非常に長い時間を要していますが、このプラスチック条約は、2022年12月のウルグアイでの最初の交渉(INC-1)からわずか2年強で合意に至る可能性があるということです。ただし、最終文書の野心度や条約に基づいた取組を担う現場の声がどれだけ反映されるかが鍵を握ります。
現在の状況
地方自治体は、交渉の過程を通じ、一貫して国を支援し行動する用意があることを明確に示してきました。数億人の人々を代表する都市や地域は、プラスチック汚染の最前線にいます。地方自治体は廃棄物処理システムを設計・運営し、土地利用や都市計画を監督し、学校や公共機関を管理・運営し、公的調達も担っています。それにもかかわらず、現行の条約草案ではその役割が十分に反映されていません。
しかし希望が持てる動きもあります。INC5.2における交渉の基礎となる草案(議長文書)の中で、2つの重要な条文が地方自治体の役割を認識しています。第8条「廃棄物管理」ではサブナショナルでの取組の重要性が強調されており、第12条「キャパシティビルディング(能力構築)」では地方自治体が主要な実施パートナーとして明記されています。これらの条項は、実際に行動の担い手となる主体を正しく認識していると言えます。
イクレイのサーキュラー(循環型発展)の責任者、マガシュ・ナイドゥ氏はこう述べています。「バリューチェーンの視点から見ても、これらの条項は理にかなっています。廃棄物管理は、地方自治体の中核的な機能です。条約を機能させるためには、実施が行われる現場から始めなければなりません。しかし、実施を加速するには、財政面での条項にも地方自治体を含める必要があります。」
今後必要なこと
条約草案には依然として欠けている、あるいは十分に整備されていない重要な要素がいくつかあります。例えば、指針となる基本原則の明確な言及、既存のプラスチック汚染への対処条項、資金面の仕組み、国家計画、市民の情報アクセスの保障などが不十分です。これらが不十分なままでは、地方自治体は、必要な資源も正式な権限も与えられないまま、目標の達成を求められることになります。
イクレイは、「プラスチック汚染の根絶を目指す地方自治体連合」の一員として、ケベック州政府、カタルーニャ州政府、UCLG(国際都市・自治体連合)、Global Cities Hubなどと連携し、より明確で強い文言を条約に盛り込むよう主張しています。また、地方の声を単なる「実施者」ではなく、「政策形成、資金調達、持続的な行動のパートナー」として位置づけることを求めています。
特にINC-5.2では、「交渉プロセスがすべての関係者に開かれたものになるかどうか」に注目が集まっています。前回のINC-5釜山会合では、週の途中でステークホルダーの参加が制限され、透明性と包摂性に対して懸念が生じました。イクレイとそのパートナーは、こうした前例を繰り返さないよう強く訴えています。
「野心的な合意に達するためには、全員が交渉の場にいる必要があります」とナイドゥ氏は語ります。「地方自治体は単にその存在の認知を求めているのではありません。地方自治体は解決策、リーダーシップ、そして実行力を提供しています。排除される余地はありません。」
INC-5.2に至るまでの道のり
INC-5.2に向かう道のりは、さまざまな立場の対立によって形作られてきました。一部の国は、プラスチック汚染を生産から廃棄まで包括的に取り組む「ライフサイクル全体に責任を持つアプローチ」を支持しています。一方で、他の国々は廃棄物処理に焦点を当てた、いわゆる「末端対策(エンド・オブ・パイプ)」を重視しています。合意を得るには、このギャップを埋めることが不可欠です。
また、すべてのプラスチックをなくすことは現実的ではない、という点も理解しておくことが重要です。プラスチックは医療などの分野で重要な役割を果たしています。この条約では、まず最も有害な使い捨てプラスチックから対策を始める必要があります。そして、地方自治体の負担を増やさずに、広く展開が可能で再利用できる仕組みをつくることが求められています。
今後に向けて
最終的にどのような結果になろうとも、明確なのは地方自治体が実行の最前線を担うということです。プラスチック条約を成功させるためには、地方自治体が主導的な役割を果たせるよう、十分な資源、正当な評価、そして法的な裁量が必要です。
イクレイは、プラスチック条約交渉の状況を把握・発信し、他パートナーと共に、地方自治体が主導的な役割を果たせるよう働きかけていきます。
本記事は、イクレイ世界事務局による記事を元に、イクレイ日本が編集しています。